時を刻むという行為が、ただの機械的な動きではなく、身につける人の美意識や生き方を映し出すことがある。高級腕時計はその最たる存在かもしれません。緻密な職人技、継承されるブランド哲学、そしてなにより手首に感じる「誇り」。
けれど、名の知れた時計ブランドの世界は、最初は少しとっつきにくいのも事実。何十万、時には百万単位の買い物を前に、躊躇するのは当然です。
だからこそ今回は、「エントリーモデル」というキーワードに注目しました。ブランドのDNAをしっかり受け継ぎながらも、比較的手が届きやすい——そんなモデルがあるんです。
初めての一本って、ちょっと緊張しますよね。でも選ぶ時間もけっこう楽しいものです。そんな気持ちで、この記事をまとめてみました。
高級腕時計のエントリーモデルとは

エントリーモデルって、どんな時計?
高級時計の「エントリーモデル」とは、いわば「入り口の一本」。価格は決して安くはないけれど、ブランドが大切にしてきた技術や美学が、しっかりと息づいているモデルです。
多くは数十万円〜百万円未満くらいの価格帯に位置していて、素材や機構をシンプルにすることで、手が届きやすくなっています。
それでも、作りには一切の妥協がないのがすごいところ。手にしたときの質感、腕に乗せたときの存在感。まさに「本物の時計」を体験できる一本です。
エントリーモデルを選ぶ理由
エントリーモデルを選ぶメリットは複数あります。
- ブランドの本質を体験できる:ブランドの哲学に触れられる エントリーモデルであっても、ブランドの核となるデザイン思想や職人技はちゃんと息づいています。だからこそ、その一本から「そのブランドらしさ」を感じられるんです。
- 維持費が比較的抑えられる:維持費も比較的リーズナブル オーバーホールや修理の頻度も、複雑モデルよりは控えめ。長く付き合っていくためにも、管理のしやすさは重要なポイントです。
- 日常使いしやすい:日常使いしやすい 複雑機構が省かれているぶん、厚みも抑えられ、軽くて扱いやすいモデルが多め。スーツにも私服にも合わせやすいデザインが豊富です。
- 将来のコレクション拡充の基盤になる:将来の時計選びの基準になる 時計沼は、一度ハマると抜け出せません。でも最初の一本が良い経験になると、次の一本にも自然と目が肥えていきます。
価格帯、デザイン、機能性のバランス
高級時計を選ぶとき、スペックや価格はもちろん大事。でも、「なぜこれがいいと思ったのか」を言葉にできると、それはもうあなたにとって特別な一本になるはずです。
以下のポイントをヒントにしてみてください。
- ブランドの物語を知ることが大切。パテック・フィリップの「あなたは所有するのではなく、次の世代のために預かっている」という名言のように、時計にはそれぞれの背景があります。歴史や哲学を知ると、選ぶ目も変わってきます。
- デザインはライフスタイルに合わせて スーツ中心ならドレスウォッチ、アクティブ派ならスポーツウォッチ。毎日の過ごし方にフィットするかどうかを想像してみましょう。
- ムーブメントは「鼓動」を選ぶ感覚で ゼンマイを巻く感触が好きなら手巻き、便利さ重視ならクォーツ、バランス派は自動巻き。使っていてワクワクするものを選ぶのが一番です。
- 素材は見た目と実用性のバランスで ステンレススティールはタフで実用的。サファイアガラスは傷に強く、長く使えます。革やメタルのストラップも、意外と印象を左右します。
- アフターサービスは「信頼」の証 高級時計は一生モノ。だからこそ、メンテナンス体制が整っている正規店で買うのがおすすめ。保証書や修理対応など、安心できる相手から買いましょう。
初めてのブランド腕時計選びのポイント

ブランドの歴史と哲学
時計ブランドを選ぶ際は、その歴史と哲学を知ることが重要です。長い歴史を持つブランドは、時代を超えて評価される確かな技術と美学を備えています。例えば、パテック・フィリップは「あなたはパテック・フィリップを所有するのではなく、次の世代のために預かっているにすぎない」という哲学を持ち、世代を超えて受け継がれる価値を創造しています。
ブランドの歴史を学ぶことで、単なる商品ではなく、そのブランドが積み重ねてきた物語の一部を手に入れる喜びを感じることができます。
デザインの多様性
腕時計のデザインは非常に多様で、大きく以下のカテゴリに分類できます。
- ドレスウォッチ:フォーマルな場でも映える洗練されたデザイン。薄型で控えめな佇まい。
- スポーツウォッチ:耐久性と視認性を重視。ダイバーズウォッチやクロノグラフなど。
- ミリタリーウォッチ:実用性とシンプルさを追求。頑丈で読みやすい設計。
- アビエーションウォッチ:パイロット向けに開発された視認性の高いデザイン。
初めての一本を選ぶ際は、自分のライフスタイルや使用シーンを考慮し、最も汎用性の高いデザインを選ぶと良いでしょう。
ムーブメントの種類と選び方
時計の心臓部であるムーブメントには、主に以下の種類があります。それぞれの特徴を確認して、自分に合うものを選ぶといいでしょう。
- 手巻き:毎日ゼンマイを巻く感覚が“通”な楽しみ。時計との対話を大切にしたい人に。
- 自動巻き:腕の動きでゼンマイが巻かれる、王道の機械式。普段使いにもぴったり。
- クォーツ:電池式で手間いらず。とにかく正確で扱いやすいのが魅力。
- スプリングドライブ:セイコー独自のハイブリッド機構。滑らかな秒針が美しい。
初めての高級時計としては、自動巻きのモデルが扱いやすく、本格的な機械式時計の魅力を感じられるのでおすすめです。
素材と耐久性
高級時計の素材選びも重要なポイントです。
- ケース素材:ステンレススティール、チタン、貴金属(ゴールド、プラチナ)など
- ガラス:サファイアクリスタル、ミネラルガラス、アクリルガラスなど
- ストラップ/ブレスレット:メタル、レザー、ラバー、ファブリックなど
エントリーモデルではステンレススティールケースとサファイアクリスタルガラスを採用したモデルが一般的で、耐久性に優れています。ストラップ/ブレスレットは用途によって選ぶと良いでしょう。
保証とアフターサービス
高級時計は長く使うものですから、保証とアフターサービスも重要な選択基準です。
- 国際保証書の有無
- 保証期間の長さ(通常2〜5年)
- 正規修理センターの所在地
- オーバーホールの周期と費用
正規販売店で購入すれば、これらのサポートが確実に受けられるメリットがあります。
メンズ エントリーモデル おすすめ

それではここからは、具体的なおすすめモデルをご紹介。まずは男性向けモデルから。ルをご紹介します。
オメガ シーマスター アクアテラ
スーツも休日もこれ一本でカバーできる、万能モデル。エレガントなのにどこかスポーティで、着けるだけで背筋が伸びるような存在感があります。
水に強くて、磁気にも強くて、ムーブメントも高精度。バランスの取れた「安心感」が光ります。
あのチークパターンの文字盤を見るたび、オメガの遊び心にちょっとニヤけてしまうのは、私だけじゃないはず。
価格帯: 約73〜90万円
特徴: 優れた汎用性、高い防水性、磁気に強いムーブメント
タグ・ホイヤー カレラ キャリバー5
スポーティなんだけど、シンプルで上品。カレラの良さは、このバランス感覚にあります。
モータースポーツの世界観を持ちつつも、ビジネスにもちゃんと馴染む。値段以上にしっかり“時計してる”感があるモデルです。
コストパフォーマンス抜群なので、最初の一本としては間違いなくおすすめ。
価格帯: 約28〜35万円
特徴: スポーティかつエレガントなデザイン、高いコストパフォーマンス
IWC ポルトギーゼ オートマティック
少し予算を上げても良いという方に。ポルトギーゼは、一目で「美しい」と感じさせるデザインが魅力。
大きめのケースと端正なレイアウト、そして7日間のロングパワーリザーブ。これは「使う時計」というより「魅せる時計」かもしれません。
落ち着いた大人の余裕を感じさせる一本。
価格帯: 約96〜130万円
特徴: 優雅なデザイン、7日間パワーリザーブ、高い視認性
チュードル ブラックベイ フィフティエイト
ロレックスのDNAを受け継ぎながら、もっとカジュアルに楽しめるのがチュードル。
ブラックベイ フィフティエイトは、ヴィンテージ感と現代的な使いやすさが両立していて、時計好きなら思わずうなる完成度。
派手すぎず、でもしっかり主張もある。そんな絶妙さがクセになります。
価格帯: 約45〜55万円
特徴: ロレックスの技術を受け継いだ高品質、クラシカルなデザイン
ジャガー・ルクルト マスター コントロール デイト
薄くて、控えめ。でも、芯がある。
そんな言葉がぴったりなこの時計。控えめなデザインの中に、ジャガー・ルクルトの技術力がぎゅっと詰まっています。
着けた人だけがわかる“静かな凄み”。玄人好みの一本です。
価格帯: 約115〜130万円
特徴: 薄型エレガントデザイン、高精度の自社製ムーブメント
レディース エントリーモデル おすすめ

女性にとって時計は、アクセサリーでもあり、自己表現でもあります。ここでは、そんな手元を美しく彩るレディース向けのエントリーモデルを5本、厳選してご紹介します。
カルティエ タンクソロ
シンプルなのに目を惹く。そんな時計を探している方にぴったりなのが、カルティエのタンクソロ。
クラシックなレクタンギュラーケースは、どんな服装にもすっとなじんで、それでいて個性もある。さすがカルティエ、と思わせてくれる一本です。
※現在は生産終了モデルなので、中古市場がメイン。状態の良いものを見つけたら「出会い」だと思って、手にしてみてください。
価格帯: 中古市場で約27〜40万円(サイズとストラップによる)
特徴: 永続的な美しさを持つデザイン、上品な佇まい
オメガ コンステレーション
キリッとしたブレスレット一体型デザインに、星のような煌めきを添えるダイアル。
コンステレーションは、どこか都会的な雰囲気をまとった時計です。ビジネスでも華やかな席でも頼れる存在。
女性らしさを品よく演出したい方におすすめ。
価格帯: 約45〜70万円
特徴: 美しいブレスレットデザイン、日常使いに適した実用性
ロレックス オイスターパーペチュアル 28mm
ロレックスの中でも最もミニマル。それでいて、ちゃんと“ロレックスらしさ”が詰まっているのがこのモデルです。
小ぶりで可憐、でもしっかり主張もある。その絶妙さは、まさに“名脇役”。
さりげなく良い時計を身につけたい方には、ぴったりの選択肢です。
価格帯: 約90〜110万円
特徴: 高い投資価値、優れた耐久性、シンプルなデザイン
ブレゲ クラシック
繊細なギョーシェ彫り、流れるようなブレゲ針、そして独特のブレゲ数字。
クラシックという名前に恥じない、まさに“時計芸術”のような一本です。
つけているだけで背筋が伸びるような、そんな気品をまとった時計をお探しの方に。
価格帯: 約108〜140万円
特徴: 伝統的な美意識、高い技術力、クラシカルなデザイン
ショパール ハッピーダイヤモンド
文字盤の中を自由に動くダイヤモンドたち。ショパールならではの遊び心が詰まったアイコンモデルです。
見るたびに笑顔になれるような、そんな幸福感のある一本。
個性的で、でもどこか品のあるデザインが好きな方におすすめです。
価格帯: 約25〜90万円(モデルによって大きく変動)
特徴: 個性的なデザイン、自由に動くダイヤモンド、高い芸術性
憧れブランド別 エントリーモデルガイド

それぞれのブランドには、それぞれの「らしさ」があります。 ここでは、特に人気の高いブランドから「初めての一本」として選びやすいモデルをご紹介します。
ロレックス
ブランド概要:
1905年の創業以来、精度と耐久性を追求し続けてきた時計界の巨人。「永久(Perpetual)」という言葉に象徴されるように、長く使い続けられる時計作りを理念としています。
エントリーモデル:
オイスターパーペチュアル(約90〜110万円)
特徴:
「シンプル イズ ベスト」を体現したような一本。これぞロレックス、という安心感があります。ブランドの威厳を保ちながらも、派手さを抑えたデザインは、オンオフ問わず使いやすい。資産価値の面でも評価されやすいモデルです。
オメガ
ブランド概要:
1848年に創業した老舗ブランド。月面着陸に同行した「スピードマスター」や、「007」シリーズでジェームズ・ボンドが着用する「シーマスター」など、歴史的な名作を多数生み出しています。
エントリーモデル:
シーマスター アクアテラ(約60〜80万円)
特徴:
スポーティさとエレガンスを両立した万能モデル。シーマスターの名を冠しながら、ビジネスにも馴染む上品さがあります。信頼できるムーブメントと耐久性。価格に対しての完成度の高さは、初めての一本にふさわしいと言えるでしょう。
IWC
ブランド概要:
1868年にアメリカ人によってスイスで創業された国際的なブランド。パイロットウォッチの先駆者として知られ、実用性と精度を重視した時計作りを行っています。
エントリーモデル:
ポルトフィーノ オートマティック(約50〜70万円)
特徴:
控えめで上品。でも、じっくり見れば見るほど魅力が伝わってくる。そんな奥ゆかしさを感じさせてくれる時計です。飾らず、でも品よく。ドレススタイルにしっくり馴染むモデルをお探しの方に。
ジャガー・ルクルト
ブランド概要:
1833年創業の老舗時計メーカー。「時計職人の時計職人」と呼ばれ、多くの高級ブランドにムーブメントを供給してきた技術力の高さが特徴です。
エントリーモデル:
マスター コントロール デイト(約70〜90万円)
特徴:
通好みのブランド、ジャガー・ルクルト。その中でも比較的手が届きやすいのがこのモデルです。控えめな見た目の中に、緻密な技術がぎゅっと詰まった一本。まさに「大人の選択」です。
タグ・ホイヤー
ブランド概要:
1860年創業。モータースポーツとの関わりが深く、世界初の自動巻きクロノグラフ「キャリバー11」を開発するなど革新的なブランドです。
エントリーモデル:
カレラ キャリバー5(約30〜40万円)
特徴:
スポーツの世界観を背景にしながら、日常に馴染むスマートさを持つタグ・ホイヤー。若々しさと落ち着き、その両方を感じさせてくれる一本は、ビジネスでもプライベートでも使いやすさ抜群です。
予算別:はじめての高級時計

人それぞれの予算に合わせて、選べるモデルはたくさんあります。ここでは価格帯ごとに、満足度の高いモデルをピックアップしてみました。
10万円〜30万円の予算帯
この価格帯では、本格的な高級ブランドのエントリーモデルとして以下が挙げられます。
- ロンジン ハイドロコンクエスト(約18〜25万円)
イバーズの力強さと、老舗ブランドならではの上品さが融合。ビジネスにも使える一本。 - ノモス クラブ(約22〜30万円)
ドイツ発のミニマルデザイン。シンプルながら、どこか温かみのある一本です。 - ボールウォッチ エンジニアII(約20〜30万円)
アメリカ発祥のブランドらしく、実用性重視。暗闇でもしっかり見えるトリチウム管が特徴です。
30万円〜50万円の予算帯
本格的な高級時計ブランドへの入り口となる価格帯です。
- チュードル ブラックベイ シリーズ(約45〜55万円)
ロレックスの技術をベースにしながらも、カジュアルな雰囲気。コスパの高さが魅力。 - タグ・ホイヤー カレラ(約28〜40万円)
幅広いバリエーションと、スポーティな洗練さが魅力。若い世代にも人気。 - カルティエ タンクソロ(約27〜40万円)(中古)
ュエラーが作る時計ならではの、美しさと品格。プレゼントにも最適です。
50万円〜100万円の予算帯
一流ブランドの定番モデルが選べる価格帯です。
- ロレックス オイスターパーペチュアル(約90〜110万円)
牢さと信頼性、そしてステータス。一本持っていて損はないモデル。 - オメガ スピードマスター プロフェッショナル(約65〜90万円)
「ムーンウォッチ」としても知られる名機。歴史の重みを感じる一本です。 - パネライ ルミノール ベース(約80〜100万円)
イタリア海軍の精神を受け継ぐ、大胆で男らしいデザイン。存在感抜群。
購入時の注意点:偽物にご用心

偽物、中古品のリスク
高級時計の世界には、残念ながら「偽物」も存在します。せっかくの一本がそれでは悲しいですよね。そのような事態を防ぐチェックポイントは次のとおりです。
- ・正規販売店で買うのが最も安心。
- ・中古なら、信頼できる専門店を選ぶ。
- ・保証書・国際保証カードの有無は必ずチェック。
- ・相場よりも安すぎるものは、一度立ち止まって考えてみて。
できれば、購入後に一度正規サービスセンターで点検してもらうのも安心材料になります。
保証とアフターサービス
高級時計は長く愛用するものであるため、購入後のサポート体制も重要です。
- 国際保証書は大切に保管する
- 推奨されるオーバーホール周期を守る(通常3〜5年)
- 磁気や強い衝撃を避ける
- 防水性能は永久的なものではなく、定期的な点検が必要
- 正規サービスセンターでのメンテナンスを受ける
高級時計は適切なケアを行うことで、世代を超えて受け継ぐことができる価値ある品となります。品質の高い時計ほど、適切なメンテナンスが重要となりますので、購入前に維持費なども考慮しておくと良いでしょう。
まとめ

高級腕時計は、ただ時間を知るための道具ではありません。
誰かに見せるためでもなく、自分の気持ちを整えたり、特別な瞬間を記憶に残したり。そんな役割を持つのが「良い時計」だと思います。
初めての一本だからこそ、迷って当然。でも、じっくり選んだその過程も、後になってきっと大切な思い出になります。
ぜひ、あなたにとっての「節目」をともに刻んでくれる一本を、見つけてください。その出会いが、きっと次のステージへと連れて行ってくれるはずです。
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