近年、世界的な低金利環境が続く中、代替投資としての高級時計への関心が高まっています。単なる時間を知るための道具ではなく、資産価値とステータスシンボルを兼ね備えた投資対象として、多くの富裕層が注目しています。伝統と革新が融合した高級時計は、その希少性と卓越した品質により、安定した資産価値を保持し続けています。
本記事では、投資としての高級時計の魅力、リスク、具体的な購入戦略から出口戦略まで網羅的に解説します。投資初心者から経験豊富な投資家まで、高級時計投資に関する疑問や不安を解消し、賢明な投資判断をサポートする情報を提供します。
高級時計投資とは

高級時計投資とは、優れた品質と希少性を持つ高級腕時計を資産として保有し、将来的な価値上昇を期待する投資手法です。伝統的な金融投資と異なり、実物資産としての特性を持ち、所有する喜びと資産価値の両方を享受できる点が特徴的です。
他の投資対象との違い
高級時計投資は、株式や債券などの金融商品と比較して以下のような違いがあります。
投資対象 | 流動性 | 価格変動 | 物理的価値 | 享受できる価値 |
---|---|---|---|---|
高級時計 | 中~低 | 中~低 | あり | 所有満足感・審美的価値 |
株式 | 高 | 高 | なし | 配当・株主優待 |
債券 | 中~高 | 低~中 | なし | 利子 |
不動産 | 低 | 低~中 | あり | 居住・賃料収入 |
金 | 高 | 中 | あり | 限定的 |
高級時計投資の歴史と現状
高級時計を投資対象として見る視点は、特に1990年代以降に顕著となりました。インターネットの普及により情報アクセスが容易になり、国際的な取引が活発化したことで、高級時計の流通市場が拡大しました。
2010年代以降は、特に特定のブランドやモデルにおいて著しい価格上昇が見られ、投資対象としての認知度が高まりました。Knight Frank Luxury Investment Indexによれば、過去10年間で高級時計は平均して年率約5-8%の価値上昇を示しており、安定した投資対象として注目されています。
現在では、オンラインプラットフォームの発展により、二次流通市場がさらに活性化し、価格の透明性も向上しています。また、若年層の富裕層を中心に、伝統的な金融商品以外の代替投資への関心が高まっていることも、高級時計投資の市場拡大に寄与しています。
高級時計投資のメリット

資産価値の高さ
高級時計の資産価値は主に以下の要素に支えられています。
希少性: 高級時計メーカーは生産数を意図的に制限しており、特に人気モデルは需要に対して供給が限られています。パテックフィリップなどのブランドでは、年間生産本数を限定することで希少性を維持しています。
ブランド力: 数百年にわたる歴史と伝統を持つブランドは、その信頼性と卓越した技術により、長期的な価値を保持しています。
需要と供給のバランス: 特に人気の高いモデルは常に需要が供給を上回り、プレミアム価格で取引されています。例えば、ロレックスの特定モデルは正規店で購入するために数年の待機リストに登録する必要があるほどです。
インフレ対策
高級時計は実物資産としての特性を持ち、インフレヘッジとしての役割も果たします。紙幣の価値が低下する環境においても、希少性と実質的価値を持つ高級時計は相対的価値を維持する傾向があります。
2008年の金融危機以降、中央銀行による金融緩和政策が続く中、多くの投資家がインフレリスクに備えて実物資産への配分を増やしています。高級時計はそうした資産配分の一部として注目されています。
ステータスシンボルとしての価値
高級時計は単なる投資対象ではなく、所有者の審美眼や地位を表現するステータスシンボルでもあります。ビジネスの場でも社交の場でも、さりげなく洗練された高級時計の存在は、所有者の成功と趣味の良さを示します。
投資性と実用性、美的価値を兼ね備えた数少ない資産として、所有する喜びをもたらします。この「使用価値」は他の多くの投資対象にはない特徴です。
分散投資効果
ポートフォリオ理論の観点からも、高級時計は従来の金融資産とは異なる値動きをするため、分散投資効果が期待できます。株式市場の下落局面でも、高級時計市場は比較的安定した動きを見せることが多く、ポートフォリオ全体のリスク低減に寄与します。
高級時計投資のデメリット・リスク

流動性の低さ
高級時計は株式や債券と比較して流動性が低い資産です。適正価格での売却には時間がかかることがあり、緊急に資金が必要な状況では不向きです。特に市場環境が悪化した場合、買い手を見つけるのに時間を要することがあります。
適切な売却先を見つけるためには、専門店やオークション、個人売買など複数の選択肢を検討する必要があります。即時の現金化が困難なことを前提に、余裕資金で投資することが重要です。
保管・メンテナンスコスト
高級時計を最良の状態で維持するためには、適切な保管環境と定期的なメンテナンスが不可欠です。
保管環境: 湿度、温度、直射日光などから保護するための専用保管庫が必要です。
定期メンテナンス: 機械式時計は3-5年ごとのオーバーホールが推奨されており、ブランドによっては10万円以上のコストがかかります。これらの維持費用は投資リターンを考える上で考慮すべき要素です。
偽物・盗難のリスク
高級時計市場では偽造品や盗難品が流通するリスクがあります。特に経験の少ない投資家は、偽造品の巧妙さに騙されることがあります。
対策
- 信頼できる販売店から購入する
- 専門家による鑑定を受ける
- シリアルナンバーと付属品を確認する
- 高額な時計には専用の保険をかける
市場変動のリスク
高級時計市場も他の資産市場と同様に、需要と供給のバランス、経済環境、消費者嗜好の変化などにより価格変動があります。
特に短期的な投資視点では、一時的なブームや人気に影響されて価格が変動することがあります。例えば、特定のモデルが有名人に着用されて一時的に価格が高騰した後、下落するケースもあります。
長期的な視点で、実績のあるブランドやモデルを選択することがリスク軽減には重要です。
投資対象としての人気高級時計モデル

ロレックス
投資対象としてのロレックスの人気は不動です。特に以下のモデルは投資価値が高いとされています。
デイトナ: クロノグラフ機能を搭載した代表モデル。特にセラミックベゼルモデル(Ref.116500LN)は正規価格の1.5-2倍のプレミアムで取引されています。
サブマリーナー: ダイバーズウォッチの代名詞。特に「ノーデイト」モデル(Ref.124060)は需要が高く、安定した資産価値を維持しています。
GMTマスターII: 複数のタイムゾーンを表示できる機能性と洗練されたデザインで人気。「ペプシ」と呼ばれる青赤ベゼルモデル(Ref.126710BLRO)は特に需要が高いです。
ロレックスの強みは、ブランド認知度の高さ、流通量の多さによる流動性の確保、そして長期にわたる価値の安定性にあります。中古市場においても比較的容易に売却できる点は、投資対象として大きな利点です。
パテックフィリップ
パテックフィリップは最高峰の時計ブランドとして、長期的な資産価値の上昇が期待できます。
ノーチラス: 特にRef.5711/1Aは生産終了が発表されて以降、正規価格の5倍以上のプレミアムで取引されています。2021年に生産終了となった青文字盤モデルは特に希少性が高まっています。
アクアノート: ノーチラスに次ぐスポーツモデルとして人気。Ref.5167Aは比較的エントリーモデルとして位置づけられていますが、需要の高まりにより価値上昇が見られます。
カラトラバ: クラシカルなドレスウォッチとして長い歴史を持つモデル。シンプルでありながら洗練されたデザインは時代を超えた価値を持ちます。
パテックフィリップは年間生産本数が限られており(約6万本前後)、希少性が高く、長期的な資産価値の保全性に優れています。ただし、初期投資額が高く、流動性はロレックスよりも低いため、長期保有を前提とした投資が適しています。
オーデマピゲ
ロイヤルオーク: 1972年に発表された八角形ベゼルと一体型ブレスレットの革新的デザインが特徴。特に「ジャンボ」と呼ばれるRef.15202STは2022年に生産終了となり、希少性が高まっています。
ロイヤルオーク オフショア: より大型でスポーティなデザインのモデル。若年層の富裕層からの支持も厚いです。
オーデマピゲは年間生産本数が約4万本と限られており、特に人気モデルは入手困難な状況が続いています。デザイン性の高さと技術力により、長期的な投資価値が期待できます。
その他おすすめモデル
ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ: スポーツエレガントの代表格。ストラップ交換システムの利便性と洗練されたデザインで人気上昇中です。
ブレゲ マリーン: 伝統と革新を融合したスポーツモデル。ブレゲ独自の技術と美学が詰まった一品です。
ランゲ&ゾーネ ランゲ1: ドイツ時計の最高峰。非対称の文字盤レイアウトと卓越した仕上げにより、コレクターからの評価が高いです。
これらのブランドは主流のロレックスやパテックフィリップと比較すると流動性は低いものの、時計愛好家やコレクターからの評価が高く、長期的な価値上昇が期待できます。
価値が上がりやすい高級時計の特徴

希少性
限定モデルや生産終了モデルは希少性が高く、価値が上昇しやすい傾向があります。例えば、
- 記念モデルとして限定生産されたもの
- 生産が終了し、今後市場に新品が供給されないもの
- 特定の素材(プラチナなど)で限定的に製造されたもの
具体例としては、パテックフィリップのRef.5711/1A-010(青文字盤ノーチラス)は2021年に生産終了の発表後、市場価格が急騰しました。
ブランド力
長い歴史と確立されたブランドイメージを持つメーカーの時計は、長期的な価値の安定性が期待できます。特に「ビッグスリー」と呼ばれるパテックフィリップ、オーデマピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンや、ロレックスなどの伝統あるブランドは、時計業界での確固たる地位を築いています。
状態の良さ
投資対象としては、以下の要素が重要です。
- 傷や劣化の少ない良好なコンディション
- オリジナルの箱や保証書などの付属品が揃っていること
- 正規のサービス履歴があること
- オリジナルパーツで構成されていること(後付けパーツがないこと)
特に付属品の有無は中古市場での価格に大きく影響します。フルセットと呼ばれる全ての付属品が揃った状態が最も価値が高いとされています。
人気の高さ
需要と供給のバランスが価格形成の基本です。特に以下のような特徴を持つモデルは人気が高く、価値上昇が期待できます。
- 入手困難な「品薄モデル」
- スポーツモデル(特にステンレススチール製)
- アイコニックなデザイン
- 実用的な機能を備えたもの
例えば、ロレックスのスポーツモデル(サブマリーナー、GMTマスター、デイトナなど)は常に需要が供給を上回り、プレミアム価格で取引されています。
歴史的背景
特定の出来事や人物と関連するモデルは、コレクターからの需要が高く、価値が上昇しやすい傾向があります。
- 著名人が所有していた時計
- 歴史的なイベントに関連するモデル
- 技術革新を体現するモデル
例えば、ポール・ニューマンが着用していたロレックス・デイトナは、2017年のオークションで約1,750万ドル(約19億円)で落札されました。
高級時計投資における購入時の注意点

購入ルートの選定
高級時計を購入する際の主なルートには以下があります。
正規店
- メリット: 真正性の保証、メーカー保証、アフターサービス
- デメリット: 人気モデルは入手困難、値引きの余地がほとんどない
並行輸入店
- メリット: 正規店より入手しやすい場合がある、価格が安いことも
- デメリット: メーカー保証が受けられない場合がある
中古市場(専門店)
- メリット: 生産終了モデルの入手が可能、価格交渉の余地あり
- デメリット: 状態の確認が重要、偽物・修復品のリスク
オークション
- メリット: 希少モデルの入手機会、掘り出し物の可能性
- デメリット: 真贋確認の難しさ、競争による価格高騰
投資目的であれば、信頼できる専門店での購入がバランスが良いでしょう。正規店で購入した場合も将来的な資産価値を考慮し、保証書や付属品の保管に注意が必要です。
偽物・盗難品対策
高級時計市場では偽造品や盗難品が流通するリスクがあります。以下の対策が重要です。
- 信頼できる販売店から購入する
- 鑑定サービスを利用する(特に中古品)
- シリアルナンバーを確認し、メーカーに照会する
- 専門家の意見を求める
- 価格が市場相場と大きく乖離している場合は警戒する
特に近年の偽造品は非常に精巧になっており、一見しただけでは見分けがつかないケースもあります。確実な真贋確認のためには、専門家による鑑定が推奨されます。
価格交渉
高級時計の購入における価格交渉のポイントは以下の通りです。
- 事前に市場相場を徹底的にリサーチする
- 複数の販売店で見積もりを取る
- オフシーズン(ホリデーシーズン以外)に交渉する
- 付属品やアフターサービスなどの付加価値を交渉材料にする
- 現金支払いによる値引きを提案する
ただし、特に人気の高いモデルは値引き交渉の余地がほとんどないケースもあります。長期的な取引関係を築くことで、将来的な優遇を受けられることもあります。
付属品の確認
投資目的での購入では、以下の付属品がすべて揃っていることが重要です。
- 外箱・内箱
- 保証書(記入済みのもの)
- 説明書・取扱説明書
- タグ・シール類
- 余りのコマ(ブレスレットモデルの場合)
- 調整用工具(付属する場合)
これらの付属品は「フルセット」と呼ばれ、将来の売却時に20-30%程度価格に影響することがあります。特に保証書は真贋証明の意味でも重要です。
高級時計投資の出口戦略

売却方法
高級時計を売却する主な方法は以下の通りです。
時計専門店への売却
- メリット: 即時現金化が可能、手続きが簡単
- デメリット: 買取価格が市場価格より低い傾向
オークション(実店舗/オンライン)
- メリット: 市場価格に近い、あるいは上回る可能性
- デメリット: 手数料が高い(10-25%程度)、売却までに時間がかかる
個人売買(時計フォーラム、SNSなど)
- メリット: 仲介手数料がない、高値での取引可能性
- デメリット: 詐欺リスク、取引の手間、トラブル解決の難しさ
コンシグメント(委託販売)
- メリット: 専門店のネットワークを活用できる、比較的高値での取引可能性
- デメリット: 売却までに時間がかかる、手数料発生
投資目的であれば、売却方法も事前に計画しておくことが重要です。一般的には、高額モデルはオークションやコンシグメント、一般的なモデルは専門店への売却が効率的です。
売却時期
売却時期を決定する要素として以下を考慮します。
- 市場動向(特定モデルの人気上昇/下降)
- 新モデル発表前後の価格変動
- 自身の資金ニーズ
- 税制改正などの外部要因
例えば、メーカーが特定モデルの生産終了を発表した直後は価格が一時的に高騰することがあります。また、長期保有によるキャピタルゲイン課税の優遇措置がある場合は、保有期間も考慮すべき要素となります。
売却価格
適正な売却価格を把握するためには、以下の調査が必要です。
- オンラインプラットフォームでの実際の取引価格
- オークション結果
- 専門店での販売価格
特に近年は、Chrono24などのオンラインプラットフォームにより価格の透明性が向上しています。売却時には複数の買取店で査定を受け、比較することが賢明です。
また、売却時には以下のコストも考慮する必要があります。
- 仲介手数料(オークションの場合10-25%程度)
- 送料・保険料
- 税金(譲渡所得税など)
高級時計投資のリスク管理

分散投資
高級時計投資においても、リスク分散の原則は重要です。
- 複数のブランドに分散する
- 異なる価格帯のモデルに投資する
- スポーツモデルとドレスウォッチなど、異なるカテゴリーに分散する
- 新作と生産終了モデルの両方に投資する
例えば、流動性の高いロレックスと長期的価値上昇が期待できるパテックフィリップなど、特性の異なるブランドに分散投資することで、市場環境の変化に対応しやすくなります。
長期保有
高級時計投資は基本的に長期的視点で考えるべきです。
- 短期的な価格変動に惑わされない
- 最低5年以上の保有期間を想定する
- 値下がりしても焦らず保有を継続する
- 市場サイクルを理解する
高級時計市場も循環的な動きをすることがあり、短期的な下落局面でも長期的には価値が回復することが多いです。感情的な判断ではなく、戦略的な売買を心がけましょう。
情報収集
投資成功の鍵は質の高い情報収集にあります。
- 専門誌やウェブサイトの定期的チェック
- オークション結果の分析
- 時計フォーラムやコミュニティへの参加
- メーカーの戦略や生産計画の把握
特に以下のような情報は重要です。
- 生産終了の噂や発表
- 新作発表の予定
- メーカーの生産数の変更
- 市場での需給バランスの変化
専門家への相談
高級時計投資においては、専門家のアドバイスが有益です。
- 時計専門店のバイヤーやスタッフ
- 時計鑑定士
- 経験豊富なコレクター
- 資産運用アドバイザー(特に高額投資の場合)
特に初心者の場合、信頼できる専門家からのアドバイスを受けることで、初期段階でのミスを避けることができます。ただし、利害関係者からの助言は客観性を欠く場合もあるため、複数の意見を収集することが重要です。
まとめ

高級時計投資は、適切な知識と戦略を持って臨めば、ポートフォリオの分散と資産価値の保全、さらには価値上昇の可能性を秘めた投資対象です。しかし、同時に偽物のリスク、流動性の制約、維持コストなど、独自のリスク要因も存在します。
成功するための重要なポイントは以下の通りです。
- 十分な事前調査と継続的な情報収集
- 信頼できる購入ルートの確保
- 長期的視点での投資計画
- 適切なリスク分散
- 専門家のアドバイスの活用
高級時計投資は、単なる金銭的リターンだけでなく、所有する喜びや審美的価値も享受できる点が他の投資対象と異なります。自身の資産状況や投資目的を明確にした上で、計画的に取り組むことで、満足度の高い投資体験につながるでしょう。
投資を始める前に、まずは少額から、あるいは比較的リスクの低いモデルから経験を積むことをお勧めします。時計市場への理解を深めながら、徐々に投資範囲を広げていくアプローチが、長期的な成功への道と言えるでしょう。
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